日本公認会計士協会学術賞 受賞のお知らせ

このたび、当会理事の岡本享二氏の著書「CSR入門」が、第34回日本公認会計士協会学術賞―MCS賞を受賞しましたので、お知らせいたします。なお同賞は、2004年10月から2005年9月までに発刊された社会科学系の本の中から選ばれました。詳細はこちら
 書評

CSR入門―「企業の社会的責任」とは何か 本書は、CSR(企業の社会的責任)について、多くの事例を入れながら、その本質、必要性、重要性について学際的に、かつ、俯瞰的に解説している。
  著者は、CSRの本質を生物多様性の保護ならびに生態系の維持ととらえており、CSRへの関心の薄い読者にとってもその重要性を強く認識させてくれる。「CSRは企業だ、社会だと限定せずに、地球上で生きていくからには企業にも市民にも消費者にも、一人ひとりに責任があると考えるべきこと」ではないかと主張し、企業だけがCSRの推進役ではなく、社会全体の責任であるが、その中で企業の影響力が大きいことを指摘している。さらに「CSRを単に企業の一過性の経営事項として片づけるのではなく、地球環境の保全に目を向けた根本的な人間活動ととらえよう」としており、それは当然のことではあるが、本書の重要な鍵となっている。 
  CSRや持続可能性(サステナビリティ)の議論では、企業活動を経済、環境、社会の三側面でとらえるトリプルボトムラインという考え方がある。著者は、環境に関しては企業の環境対応策と生態系の維持とを区別し、起こった問題への対処としての行動と、率先して行う先を見越した行動とに明確に区別している。企業の環境対応策の多くは企業の立場に立った環境問題であり、絶対的な環境負荷を削減するものではないと説明したうえで、「生物多様性の保護や生態系の維持は、絶対量で環境負荷を削減する必要があるため、国、企業、市民が一丸となって取り組まなければならない行動」と指摘する。さらに生物多様性の保護や生態系の維持は、「因果関係もつかみにくく、投資効果も計りがたいために企業としては参入しにくい」事項ではあるが、率先して取り組む必要がある最も重要な事項であると指摘している。著者は、「CSRとは、企業が社会問題と環境問題を従来の財務問題と同じように、企業の責務として利害関係者とのやり取りのなかに、自主的に組み込むこと」と定義し、企業の責務として「『自主的』に取り組むことが大切」であること、「利害関係者のなかに、もの言わぬ地球自身を欠かせないメンバーとして組み入れること」を強調している。
  CSRの概念はまだまだ流動的であるが、著者はCSRを現代資本主義の大きな潮流ととらえ、早い時期(2004年12月初版)に、その概念をよく整理して平易に解説している。日本公認会計士協会学術賞―MCS賞の選考に当たっては、顕彰の趣旨から、必ずしも学術書に限定せず、その内容を重視し検討を行った。本書は、文庫でありタイトルに入門書を謳っているが、CSRの概念を過不足なく解説しており、啓発的な内容となっている。よって、日本公認会計士協会学術賞―MCS賞に値するものとして選定した。 
(株式会社日本経済新聞社/平成16年12月10日刊)
 略歴

日本アイ・ビー・エム(株)本社・環境環境経営室長。1949年生まれ。甲南大学経営学部卒業。
1973年日本IBM入社。本社・営業企画、研究所・製品企画を経て、83年IBMコーポレーションの財務部門(アジア・パシフィック地域)。96年日本IBM本社・環境に異動、現在に至る。
NSC(Network for Sustainability Communication)幹事。千葉商科大学商経学部非常勤講師。
環境経営学会理事

日本公認会計士協会学術賞 日本公認会計士協会がマネジメント・コンサルティング・サービスの分野において、公認会計士の業務の向上に質すると認めた優秀な著書又は論文に対して学術賞―MCS賞を教授し、表彰しているものです。

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