サステイナブル経営診断2009について
はじめに
 サステイナブル経営格付は、環境経営学会発足直後の2002年度に第1回環境経営格付として実施して以来、2009年度までに8回にわたり当学会の主要な事業として推進してきました。
 2009年度から活動のタイトルを「サステイナブル経営診断」と変更しましが、これは、当該活動の実態が、企業の経営をサステイナブル経営としてどの程度成熟しているかを診断するものであったことから、2007年度から「格付/診断」とし、2009年度からは正式に「経営診断」と改めたものです。
2009年度の活動は2009年10月〜2010年4月の間において実施され、経営研修会、参加企業の自己評価、評価委員によるヒアリング、経営インタビュなどを重ね、経営評価・診断の決定、サステイナブルマネジメント・ツリー図の作成・参加企業各位への報告などを経て、2010年度環境経営学会定期研究報告大会(2010年5月28、29、30日開催)における結果の報告を以って完了しました。
1. サステイナブル経営診断2009の狙いと枠組み
 環境経営学会の設立趣旨である「工学、経営学そのほかの関連諸科学と諸経験を総合し、マネジメント・フォー・サステイナビリティの確立のため、研究者、経営者、市民の理論的・実証的研究の場を開設し、幅広い研究活動を行い、これらの研究成果を実社会に根付かせる普及啓発活動も行う」に鑑み、その狙いを次のとおり定めております。
@. 地球環境の維持・保全・回復と、持続可能な文明社会の構築に貢献する方向に、大き な力を持つ組織・企業の活動を向ける。
A. 組織、取分け企業経営の持続的発展を可能とする基盤の整備に貢献する
B. 組織・企業のマルチステークホルダ・コミュニケーションに資する
 枠組みは、基本的には前年度までの枠組みを踏襲し、評価側面や評価項目の見直しを実施しました。

 サステイナブル経営の定義は、前年度までの定義を踏襲し、次のとおりとしました。

「企業は社会の公器であるとの認識の下に、持続可能な社会の構築に企業として貢献することを経営理念の一つの柱と定めて経営を進め、社会からの信頼の獲得と経済的な成果を継続的に挙げることによって真の企業価値を高め、企業の持続的発展を図る経営」


 経営診断の評価項目は、「評価側面」は経営、環境、社会の各分野合計17側面、「設問」は147問、5段階評価を行う「必須要件」は328項目としました。評価基準の検討に当たっては、企業不祥事への対応、地球温暖化防止への対応、ワーク・ライフ・バランス、育児・介護支援、非正規社員への配慮など、進展する社会の動きを踏まえた基準を設定したほか、公開された社会的責任に関する国際規格原案「ISO/DIS26000仮訳」の各項目も参照するなど、評価の先見性・公平性・公正性を徹底させるとともに、より高度な対応を要求する項目も増加させることとなりました。

 参加企業数は、研修会参加を含め10社となりました。

2. 2009年度の経営診断結果の概要
 2006年度〜2009年度の評価側面別平均評価獲得率をグラフ化すると次の通りであります。

2009年度について概観すると次の通りです

(1) 経営分野(経営理念〜情報戦略・コミュニケーション)は「リスク戦略」を除き、概ね好評価となりました。「リスク戦略」は、リスクマネジメントの概念を拡張し、「災害時等の事業継続リスク」及び「情報セキュリティ・リスク」への経営トップを含めた対応を評価基準に取り入れたのに対して、企業側の対応が不十分であったことによると見られます。

(2) 環境分野(「物質・エネルギー管理と環境負荷低減」〜「土壌・水質汚染の防止・解消」)では、「物質・エネルギ管理・環境負荷低減」、「生物多様性の保全」、「地球温暖化の防止」及び「土壌等汚染の防止・解消」の4側面については、際立って低い評価となり、学会の提唱するサステイナブル経営の「あるべき姿」が依然として十分浸透していないか、あるいは受け入れられていないことを示すものです。これらの4側面は、今日、地球温暖化や資源枯渇問題、生態系の保全など、地球レベル、国家レベルで推進すべき課題と個別企業の果たすべき責務のあり方に対して、学会が積極的に根源的な課題を提起している側面であります。
 学会としても更なる研究の深耕を図ることは勿論のこと、警鐘を鳴らすに止まらず、いかなるアクションによれば到達可能なのかの処方箋を社会に対して提示し、対話と協働により、企業社会への定着化を図っていく必要があると考えます。

(3) 社会分野(「消費者への責任履行」〜「地域社会の共通財産の構築」)では、重要なステークホルダのうち、「消費者への責任履行」はほぼ持続可能な水準に到達しているとみられますが、「従業員」に対する社会的責任の履行状況の中で、とくに「仕事と私的生活の調和(ワークライフバランス)」については、昨今の非正規労働者に対する企業の対応状況に対して学会として危機感を募らせ、昨年来、正社員に限定した取組みに対しては評価を 1点減点すること、派遣社員に対する業務上必要な教育訓練の実施を求めていること、などに対して、一部の企業の対応が遅れていたことなどから、評点獲得率は低位にとどまりました。また、「サプライチェーン」に対するCSR経営の徹底を促す「CSR調達」に関しては、年々低下して2009年度は評点獲得率が50%台となり、社会分野では最も低い獲得率となっております。この側面では、ほぼ満点に近いと評価された企業が存在する半面、50%以下の評価にとどまる企業もあり、企業間のばらつきが最も大きい側面となりました。「地域社会」との協働による共通財産の構築については、かなり改善されました。

おわりに
 最後に、多忙な中、学会のサステイナブル経営診断2009に参加いただいた参加企業、研修会参加企業の皆様に心からお礼を申し上げます。今後ともサステイナブル経営のトップランナーであり続けていただくよう心から期待します。
 さらに、無報酬のボランティア活動で真摯に経営評価活動を推進していただいた、学会会員諸兄姉に対し、衷心より敬意と感謝の意を表します。

2010年12月
特定非営利活動法人 環境経営学会
理事・経営診断推進委員長 中村 晴永
サステイナブルマネジメント・ツリー図
 葉の色によって、その側面の「戦略」「仕組み」「成果」別に、組織・企業の活動が
 到達している水準を表しています。
---------------------------------------------------------------------------------------- *下記の各社に成果の掲載を快諾いただきました。
            
株式会社大塚商会 tree comment 日本ハム株式会社 tree comment
           
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