
『研究事業とは』 鈴木 道彦
2021年12月15日
「経営診断推進委員会」は環境経営学会の中核として多くの人が参加して研究事業を行って来た。その研究の成果、知的資産を企業・個人などに広く活用してもらい、本学会にその費用を頂いている。
「経営格付/経営診断」は、スタートした約20年前には独立行政法人化学技術振興機構(JST)から3年間研究助成を受けており、新鮮さに加えて無料であったこともあり、多くの企業に参加をして頂いた。その後も独立行政法人環境再生保全機構(ERCA)地球環境基金の助成を受けながら、その後自主事業として参加企業には必要経費を頂く仕組みに変更された。私が本委員会の委員長になった後、7年ぐらい前からこれらの知的資産の価値を高く評価してもらうように有料メニューの拡大と診断費用を大きく引き上げた。すなわち「経営評価の手引き(冊子)」の頒布から、プレゼンテーション、経営評価・診断まで多くの学会員の協力を得て少しずつ有料の実績を上げ、学会の収入に寄与することができた。
そもそも、研究や環境対策には時間と費用がかかる。私が5つの企業・団体のプロジェクトリーダーとして参加したオゾン層保護(モントリオール議定書)を目的とした特定フロン(CFC)回収・破壊及びリサイクル実証試験は、経産省(当時通産省)の補正予算を受けて平成6年に開始した。当初は自治体や企業などを対象に無料で行ったが、軌道に乗り始めたころから有料化に踏み切った。そして、私はこの成果のマイルストーンを有名な表彰と考え、平成7年には米国環境保護庁(EPA)オゾン層保護賞、そして平成8年には日本経済新聞環境賞を受賞することができ、その成果を広く国内外に認めて頂いた。
一方、地球温暖化防止を目的に開催された平成9年のCOP3(京都議定書)では対象ガスとして二酸化炭素、メタンの他、HFC(新フロン)などが急遽加わり6ガスとなった。よって上記実証試験の対象であったCFCに加えてHCFC、HFCなどの温暖化係数が高いフロン類を広く集め、実証試験を拡大した。その後、平成13年にフロン回収・破壊法が法制化された。今ではオゾン層破壊係数の高いフロン類は全世界では生産中止となり、代替品としての新化学物質の開発をしているが、並行してこのような回収システムを実施している国は世界中で日本だけである。このシステムは地球温暖化対策にも貢献している。
日本において広く資源リサイクル(廃棄物)有料化の一つの大きな潮目は、家電リサイクル法(平成10年制定)、自動車リサイクル法(平成14年制定)、パソコンリサイクル法(平成25年制定)などの法制化と、業界と一体になった有料リサイクルシステムの構築であった。もちろん、前記有料のフロン回収法は、冷媒として使用されている冷蔵庫、エアコン、自動車用エアコンにも組み込まれた。資源の回収とリサイクル有料化の先陣を切って、日本の資源リサイクルシステム構築に貢献をすることができたのは大変に光栄であった。
私は企業の研究、事業開発に長年にわたって携わってきたが、その研究の原点はシーズ(種)思考(インサイドアウト)ではなく、ニーズ(社会の必要性)思考(アウトサイドイン)であること、特にニーズとのタイミイングが重要であることを学んだ。そして研究は趣味で時間と費用を使っていると言われないように異分野の方からも評価されるアウトプットまでを明確にするストーリーが重要であり、具体的には数値あるいは金額で表現できればベストである。そのステップとして専門領域を超えた広い知識、情報を集め、まずはレベルの高い様々な表彰を目指すことを若い研究者に推奨したい。受賞後には優秀な賛同者が集まってきて、新らしい道が開けて行くと信じている。(2021年12月)