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『「世界難民の日」に思うこと:共生とサステナビリティ』 山吹 善彦

6月20日は国連が定める「世界難民の日」でした。これを機に、難民問題の深刻さと持続可能な社会への取り組みについて改めて考えたいと思います。

難民をめぐる課題は、難民の急増とその取り扱い、経済的な視点、そして難民の身分証明の課題など多岐にわたりますが、これを持続可能な社会実現の一環として捉え、共生の視点から向き合うことが重要と考えます。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の「グローバル・トレンズ・レポート2024」(2024年6月12日発行)によると、2024年末時点で世界の強制移動者数は過去最多の1億2,320万人に達しています。ウクライナ、パレスチナ、アフガニスタン、シリアなど多くの地域で、紛争や迫害により生まれ故郷を離れざるを得ない人々が後を絶ちません。また、IPCC第6次評価報告書では、気候変動による海面上昇や高温化により、2030年までに最大2億人が移住を迫られると警告されており、気候難民の増加も課題です。

そのような中で、欧米では自国第一主義の主張が強まり、右翼政党の台頭などにより難民排斥の動きが加速しています。日本でも極端な主張を行う政党が台頭しつつある状況があります。また、イプソス「難民に対する世界の意識」調査(2024年)によると、日本は「富裕国には難民支援の道義的責任がある」などの設問に対し、29か国中最低の賛同意見を示しています。さらに、法務省発表(2024年3月)では、2024年の難民認定申請件数1万2,373件に対し、認定はわずか190人(1.5%)と、先進国の中でも極めて低い水準となっています。

内閣府の世論調査(2024年)では、「難民受け入れに伴う財政負担」を懸念する回答が62%に上り、コスト意識がその要因となっていることがうかがえます。しかし、人口減少が進む日本では、地方の農業や中小企業での担い手不足が深刻化しています。働き手としての難民受け入れは、この課題への一つの解決策となり得るといえます。経済同友会が掲げる「共助資本主義」の一環として、「難民人材活躍プラットフォーム」による地域と難民のマッチングの取り組みは、今後のさらなる広がりが期待される動きです。

一方で、難民を単なる労働力として扱うのではなく、個人として地域社会に順応し、能力に応じた選択肢を提供する社会基盤の構築が重要です。地方での安定した生活や、都市圏・海外でのステップアップを支援することで、難民が日本の力となる可能性を広げることができます。難民課題に何かあってから対応するのではなく、プロアクティブに準備し、社会的な試行を進めることは、サステナビリティへの取り組みと同義といえるでしょう。

そして難民問題には、身分証明の課題も存在します。ブロックチェーンやAIを活用した電子IDの整備は、一人ひとりが自らの身分を証明できる環境を実現する重要な取り組みです。台湾では「プルラリティ(社会的差異を超えたコラボレーションのための技術)」を基盤に、テクノロジーを民主主義に効果的に取り入れ、多元的な社会を構築しています。一方で、世界では分断(自国第一主義)が進み、テクノリバタリアン(技術が社会課題を解決できるとし、技術者に自由な権限を求める思想)による(無)責任な『自由』が広がりを見せています。このような状況下で、個人の身分証明を実現しながら、多元性を実現する取り組みは、日本がテクノロジーを活用し、難民受け入れの基盤を整備する上でも参考になります。

将来の不確実性として、台湾有事や日本国内での大規模災害による「難民」の発生も想定されます。自らが難民となる可能性も踏まえ、自国を離れざるを得ない人々を受け入れ、共生する準備を進めることは、持続可能な社会への第一歩です。

難民受け入れを「共生」と捉え、政策的・社会的な基盤整備を進めることは、持続可能な社会の実現に不可欠です。難民問題をサステナビリティの一環として位置づけ、企業や地域と連携した取り組みを推進していくべきでしょう。

私たち一人一人がこの課題に向き合い、共に持続可能な社会を築くための行動を起こすことが求められています。(2025年7月12日)