
『なぜサステナビリティは浸透しないのか』 安藤 光展
2025年9月15日
なぜサステナビリティは社内に浸透しないのか。筆者が主宰する研究会(※1)で実施したアンケートやヒアリングによれば、社内浸透における課題は「経営層の理解を得にくい」「従業員の行動が引き出せない」「活動の効果測定ができない」などが挙げられる。他にも社内浸透をサステナビリティ教育だと考えると、「教育プロセスが標準化されていない」「講師の力量に差がありすぎる」「研修が“バズワード紹介”になっている」などの課題もある。日本では2003年が「CSR元年」とされ、企業の社会的責任が議論されるようになってから20年以上たつが、社内浸透の課題解決は一向に進んでいない。
また研究活動で企業インタビューを数十社もさせていただくと、身も蓋も無い課題もよく見聞きする。「業績の良い企業では社内浸透が進んでいる」「社長の意識が高い企業は社内浸透が進んでいる」「パーパスの解像度が高い企業は採用が強く、従業員のサステナビリティ意識がそもそも高い」などの傾向だ。社内浸透に課題を抱える多くの企業からすれば羨ましい限りである。
課題の解決手法は様々だが、まずは「手段の目的化を防ぐ(施策の検討から始めない)」という視点が重要と考える。多くの社内浸透の議論は施策(How To)にフォーカスされすぎていて、最も重要な目的(ゴール)や行動変容設計が曖昧になっていることが多い。
この手段の目的化を防ぐには社内浸透のロードマップ(グランドデザイン)を初期段階で作るのが良い。社内浸透は、サステナビリティの視点を事業に取り入れるための、意識変革・行動変革における移行計画でもあり、成果はゼロイチではなくグラデーションのある中でいかにあるべき姿までつなげるかを策定するものでもある。このグランドデザインがないからこそ「社内浸透は何からやったら良いか」という方法論を求める多くの質問につながってしまうのではないか。
すべてのサステナビリティ施策は、あるべき姿の解像度を上げ、現状とのギャップ分析から戦略策定を行うという、バックキャスティング(アウトサイドイン・アプローチ)の考え方で整理する必要がある。社内浸透施策も原則は同じで、部分最適ではなく全体最適から施策を考えなければならない。
サステナビリティにおける社内浸透というテーマを研究していると、サステナビリティ経営そのものを考えさせられることも多い。手段の目的化が起きやすいテーマだからこそ、経営の北極星となるあるべき姿を常に意識し事業を行うことが求められる。
※1:法政大学イノベーション・マネジメント研究センター「サステナビリティにおける社内浸透研究会」(2024年〜)