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『学校での環境教育の現状と今後の課題』 飯嶋 香織

今年度になって、大学で中・高校の教職課程の科目を担当することになり、学校教育での環境教育はどのようになっているのかを見る機会が増えた。

学校教育が環境教育を行う場合に依拠している、教育基本法第2条第4号「生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を養うこと」であり、学校教育法第21条第2号「学校内外における自然体験活動を促進し、生命及び自然を尊重する精神並びに環境の保全に寄与する態度を養うこと」とあり、環境の保全が中心となっている。自然体験活動の促進などのことが記されているように、環境教育という言葉の範囲が広いことがわかる。

現在、国の定めた教育課程(カリキュラム)には、「環境科」として独立の科目としては設置されていないため、理科、社会科、家庭科などの各教科で教科等横断的に環境教育を行うことになっている。一例をあげれば、社会科では公害の防止と環境保全、理科では持続可能な社会をつくることの重要性の認識、地球温暖化,外来種についてなど、家庭科では環境に配慮したライフスタイルや主体的に生活を設計などである。各学校で環境教育を念頭において学校全体でのカリキュラムマネジメントをすることになっているが、現状は多くの課題がある。環境省「令和2年度環境教育等促進法基本方針の実施状況調査(アンケート調査)」結果」での小・中・高の教職員対象の質問で、ESD や環境教育の実施に対しての意欲をたずねると「意欲は高い」、「どちらかといえば意欲は高い」が半数程度という結果である。さらに、各教科の中で科目等横断的に環境教育を実施しているということから生じる問題もある。前述の調査で授業や学校活動で環境教育を行う際の課題の質問(複数回答)では、授業時間の確保が難しい(42.9%)、適切な教材やプログラムなどの準備ができない(27.9%)、カリキュラムマネジメントが難しい(27.7%)であった。7.4%の回答率ではあるが、「取りあげるべき環境課題がわからない」と回答しており、学校現場に環境教育が浸透していない様子も読みとれる。

さらに内容面に関しては、あくまでも私見ではあるが、環境教育の教材自体が、未来志向ではないように感じられる。各都道府県教育委員会、各市町村教区委員会は環境教育の教材を数多く作成し、HP上で公開している。学校種、対象学年や教科によっても取り上げる分野や対象が異なっており、さらに私はすべての教材を見ているわけではないので、断定することはできないが、環境問題の捉え方や今後の展望などが前向きではないように感じられる。

例えば、地球温暖化を取り上げている教材では地球温暖化の現状の説明の後に、地球温暖化対策として企業の取り組みなどを説明している教材は少ない。教材の結論部分が環境への負荷の低減のために食品ロスやごみの消費を各自が減らしましょうといった教材が多い。前述の環境省の調査で教員対象の質問でも「ESDの視点を踏まえた上で、どのような内容の環境教育を行っているか(複数回答)」でも、「ゴミの分別・紙のリサイクルなど、ゴミや資源循環に関すること」が47.9%で最も多かった。もちろん、レジ袋をもらわない、ゴミを減らすなどは大事なことである。それと同時に、社会の生産、流通、消費の仕組みをどのようにしたら、社会全体としてゴミの総量が減るのか、そのために企業や行政はどのような取り組みをしているのか、これから実施していった方がよいのかといったことの検討を通して、未来の社会のあり方を考えることも重要なことではないかと考えている。

学校で取り上げる環境教育には、私個人の感想であるが、環境と経済と社会がともに発展するといった視点が欠如しているのではないと感じている。子どもたちに、環境問題を通して、新しい社会のあり方を模索していってもらえたらと考えている。(2025年10月12日)

 

参考文献

文部科学省「新学習指導要領における「環境教育」に関わる主な内容」

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shisetu/013/003/shiryo/attach/1299713.htm

環境省「令和2年度環境教育等促進法基本方針の実施状況調査(アンケート調査)」結果

https://www.env.go.jp/content/900497869.pdf