『欧州森林破壊防止規則(EUDR)に向けたアメリカ広葉樹輸出協会(AHEC)の取組み』 大塚 生美
2025年12月13日
EU諸国で発達した「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律」が、日本でも2014年に制定されました。この法律は、特定の産地と品質等の結びつきのある農林水産物等の名称を法的に保護する上で、登録商品名を用いた類似品の流通を防ぎ、当該商品の生産者の利益の増進と需要者からの信頼を保護することを目的としています。その法律に基づいて運用されている「地理的表示保護制度(Geographical Indication Protection System、通称GI )」に、2018年、森林分野から初めて2つの特用林産物が登録されました。一つは、同年8月登録の「岩手木炭」「岩手切炭」(英語名:Iwate Charcoal)、一つは、同年12月登録の「浄法寺漆」(英語名:Joboji Urushi)になります。
さらに、今日の日本では、戦後の拡大造林期によって伐採された広葉樹林の跡地では、戦後80年を経て天然更新によって成長した広葉樹がフローリングに適した太さとなり、日本の広葉樹の需要拡大に繋がっています。かつて広葉樹は樹種の特徴(硬さ、粘り、軽さ、色、艶など)で用途が決まっていたのですが、今日の消費者は自分の好きな樹種をフローリングに用いるというような暮らし方を楽しむような変化も起きているようです。消費者の内装材の好みとして、国内外のナラ類や広葉樹の一大産地の一つ米国中西部のブラックウォルナット(胡桃)などが上位を占めています。
さて、前置きが長くなりましたが、EU諸国の木材規制は、民間主導のFSC等の森林認証運動に重ねて、2013年からは「EU木材規則(EU Timber Regulation 、EUTR)」によって、違法伐採材の流通を禁じてきました。現在はより厳しく「EU森林破壊防止規則(EU Deforestation Regulation)」に移行しています。そうした動きに対して、アメリカ広葉樹輸出協会(American Hardwood Export Council、AHEC)は、2025年9月8日、欧州森林破壊防止規制(EUDR)への対応および、今後のサステナブルな木材流通を支える新保証制度「アメリカ広葉樹保証(American Hardwood Assured)」の始動とその根拠となる『アメリカ広葉樹環境プロファイル』に関する記者発表会を実施しました。筆者もその発表会に出席する機会を頂きましたので、以下では『アメリカ広葉樹環境プロファイル』を中心にAHECの公表資料から転載し、ご紹介したいと思います。
「『アメリカ広葉樹環境プロファイル』は、特定のアメリカ広葉樹の樹種、そして特定条件に基づいたその樹種の製材を海外のユーザーに輸出する場合に、それらが環境に及ぼす影響に関するデータを提供するものです。このデータはシンクステップ社によるライフサイクルアセスメントの研究」、アメリカ森林局国有林管理分析部門(Forest Inventory and Analysis、FIA)によるアメリカ連保有林の定期監査活動、セネカ・クリーフ・アソシエーツ社による輸出向けアメリカ広葉樹に関する伐採の合法性と持続可能性の査定、森林管理協議会(Forest Stewardship Council ,FSC)のリスク登録一覧からの抜粋によるものであり、AHECではこれらの情報に基づいてアメリカ広葉樹の合法性および持続可能性を論じています。2013年よりEU諸国への家具を含む木材製品の輸出には「欧州木材規制(EUTR)」をクリアすることが求められています。『アメリカ広葉樹環境プロファイル』により、この欧州木材規制に対応しています。」
当日の報告に際し、AHEC国際プログラムマネージャーのトリップ・プライヤー氏と、環境政策担当ディレクターのルパート・オリバー氏が来日し、登壇されました。
両氏は、「アメリカの広葉樹がもともと持続的に管理された天然林から伐採されており、EUDRの求める森林破壊ゼロおよび合法材の要件を十分に満たしていること、新たに導入される『アメリカ広葉樹保証』は、伐採地から輸出に至るまでの各過程で、合法性・持続可能性・環境性能を第三者監査とデータ追跡によって保証する仕組みとして、AHECが長年にわたり構築してきた森林資源データベースやLCA(ライフサイクルアセスメント)の知見を基盤としている。
さらにEUDRで要求されている地理的位置情報(geolocation)も組み込むことで、各国で進む環境関連法規にも対応できるプラットフォームとなりうる」ことを強くお話されていました。
両氏の報告では、そのまとめとして「『アメリカ広葉樹保証』は単なる合法性証明にとどまらず、アメリカ広葉樹が地球環境の保全に貢献していることを科学的根拠とともに示し、森林破壊防止規制のもとでも、アメリカ広葉樹は極めてクリーンな木材資源であることを世界に証明できる」ものであること、「AHECはこれまでも世界各国の市場でアメリカ広葉樹への信頼を築いてきており、今後も『アメリカ広葉樹環境プロファイル』を通じて、輸入企業・メーカー・設計者が安心してアメリカ広葉樹材を選択できるよう、透明性とデータの正確性をさらに高めていきたいと考えている」こと、さらに「AHECは、今後、『アメリカ広葉樹保証』を軸とした環境情報の提供を強化し、輸出側だけでなく輸入側に対してもアメリカ広葉樹の出処を明確化し、(日本で加工された米国産木材による製品など)日本から欧州への輸出がよりスムーズに行える環境整備を進めていく方針であること」として、報告を閉じられました。
日本でも、木材の需要拡大に向けて、米国、中国をはじめとして、緩やかながら輸出シェアが拡大しています。記者発表会での報告を拝聴しながら、今後、輸出入の如何に依らず、日本でも、一層、森林生態系の保護、保全に向けた環境情報の基盤整備の要請が高まることが想定される中、科学的データに裏打ちされた『アメリカ広葉樹保証』に多くの学びがあることを感じながら拝聴しました。(2025年12月13日)
謝辞:本稿の執筆にあたり、アメリカ広葉樹輸出協会日本代表辻 隆洋氏に、転載の許可を快諾いただきました。ここに御礼申し上げます。