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『生成AIがもたらす社会課題』 浜野 隆行

今年はOpen AI社のChat GPTを筆頭に生成AI(Generative AI)が飛躍的に活躍した年であった。どこのビジネスセミナーに行っても、生成AIに関するテーマが議論されていた。新しい技術が産まれれば、使う側の倫理感を問う課題も出てくる。実際にAIの使用をめぐって2023年にハリウッドで俳優と脚本家がストライキを起こしたことは記憶に新しい。そんな中、2024年7月発刊したJournal of Business EthicsにGazi IslamとMichelle Greenwood が「Generative Artificial Intelligence as Hypercommons: Ethics of Authorship and Ownership」というタイトルで生成AIの課題を整理した論文が掲載されたので紹介したい。

論文では生成AIの特徴を「無限の生成能力」と表現している。人間の手による創作には間的・物理的制約があるが、生成AIは一瞬で膨大な量のコンテンツを生成することができ、クリエイティブ産業の生産性が向上する可能性が広がっているとしている。さらに、生成AIがもたらす『創造性の民主化』は、AIを活用することで、専門知識やスキルがなくても、誰もが高品質な作品を作成でき従来のクリエイティブエコシステムを根本から変える可能性を秘めていると語っている。

一方で、生成AIが生み出すコンテンツの『著作者の定義の曖昧さ』は、現在の著作権法において大きな課題をもたらしている。AIが独自に生成したコンテンツは、AI自身を著作者として認めるべきなのか、それともAIを利用した人間がその権利を有すべきなのかといった議論が続いている。また、AIが既存の著作物を基に生成したコンテンツが、著作権侵害に該当するか否かも複雑な問題である(Islam & Greenwood, 2024)。このように生成AIの発展ともに、まず法制度の整備が急務である。また、生成的AIの利用に関する倫理的ガイドラインや規制を策定し、透明性と責任を確保することが求められている。

さらに、生成AIの普及は労働市場、特にクリエイティブ産業における一部の職業はAIによって代替されるリスクが高まっている。例えば、イラストレーターやコピーライターなどの職種は、生成AIの能力が向上するにつれて、その需要が減少する可能性がある。一方で、AIを活用した新たな職種や産業が産まれる可能性もありこの技術がもたらす変化は二面的である。上記の事柄生成的AIの成果物から得られる商業的利益を、公正に分配する仕組みを構築する必要がある。例えば、学習データ提供者やコンテンツ作成者に対して適切な報酬を提供するためのロイヤリティ制度が提案されている(Islam & Greenwood, 2024)。
今回紹介した論文は一部であるが、学術界においても今後、生成AIの倫理的課題を問う議論が盛り上がっていくであろう。そう願いたい。 (2024年12月12日)