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『不確実性時代に求められるアート感覚』 伊藤 由宣

2023年も終盤を迎える現在コロナは収束したもののウクライナやイスラエルにおける致命的な課題が続いている。日本は政治経済視点では相変わらず混沌とした状態ではあるものの現時点で平和で総じてありがたい状況だ。

昨今の世の中をサステナビリティ観点で見回してみると気になることだらけである。環境問題では気候変動リスクが顕在化し、緊急の対応が迫られるもののCOP28の結果も含め根本的解決というよりは曖昧な起算日や合意形成に終始し相変わらず他人事が続いているような印象だ。過去に推奨された節電した電気はどこへいってしまったのだろうか。また、SDGsやESGは企業のみならず一般的にも浸透しつつ麗しい流れではあるがやはり表面的なものに映ってしまう。現代資本主義経済のメインプレーヤーである企業の経営者の対応は、法や規制という枠組みの中で何とか最低限の体裁を維持しているようにみえるのも一因かもしれない。コンサルティングの現場においても各社とも次々と新たなテーマが与えられ提示されたオプションの中から適度な対応をしつつ凌いでいる様子がうかがえる。

最近学会内でもよく話題にあがる資本主義からの脱成長路線についても我々を含め極一部のマニアにおける議論に終始しているような気がする。大学での環境経営や環境倫理の講義においても、この5年ほどで一見多少様変わりはしているものの本質的なところでの進展はあまり無く、教育観点でもより一層強化すべき領域と思われる。倫理は哲学でもあり明解な解は見出しづらい面もあるが前向きな議論は学生向けというよりはむしろ一般社会においてもより一層歓迎されるべきだ。

現職ではプロフェッショナルを中心する人事領域に関わっているが、人材版伊藤レポートでも人的資本経営と称して各社で取り組みが始まっている。世の中AI化の流れの中でリスキリングの議論や、各企業からのニーズも多いがこれも政府主導でのやらされ感が拭えない印象だ。また、最近は新卒からシニアまでキャリアコンサルタントとして面談する機会も急増しつつあるが、専門家とはいえ総じて何かを目指しているというよりは目先の諸課題に対してバランスをとりつつ日々何とか生活していくという会社員が大半のように思える。ウェルビーイングの議論にもあるが、どうありたいのかの姿は、国や組織での立場ででもひとそれぞれ違いがあり一括りにはできないものの考え方や思考方法についての整理は今後より一層必要になってくるのではないだろうか。今年訪問したサウジアラビアでは豊富な原油資産から大学が無償はあたりまえとして、そもそもあまり働くという概念は無いように思えた一方で、中南米エクアドルの農業現場で聞いた話では治安や政権にいろいろ問題があるなか農業にしろ漁業にしても仕事があること自体幸せなことであり、楽しく日々を過ごしている人が多いとのことだ。

サステナビリティというキーワードにおいて議論すべき事項はとても幅広く研究テーマを探すこと自体は難しくなさそうではあるものの何かをひとつ極めるというよりは、各テーマそれぞれが複雑かつダイナミックに絡み合った状況において、それらを如何に捉え将来を見据えることができるかという感覚がより重要になるのではないかと思われる。世の中の大半のことはAIで推測される時代になったかもしれないが、ごく僅か特別な人間にしか備わらない芸術領域におけるアート感覚を如何に見出していけるかがポイントであると考えられる。SMFではこのような時代において、貴重な議論のプラットフォームでもあるとの認識で、今後も同志とともに議論を交わしていくことで何らかの閃きを得る場になることを期待したいところである。(2023年12月13日)。