
『***』 長谷川 浩司
2022年8月13日
前号を受けて、地球温暖化問題を大学生にどのように示すかを考える。(因みに筆者の次女もコロナ禍の大学生である。)
地球温暖化問題は、近代的社会生活の結果として生じているものであり、その解決には、我々の社会や生活のあり方を問わねばならない。
我々が選択している資本主義は、新市場開拓部門たるバスコダガマ、マゼランが開拓した航路を、販売部門たる英国東インド会社が1600年に活動を開始したことに始まる。資本拠出金を元手に世界各地で交換取引により株式会社が利潤を獲得する仕組みを確立した。(因みに英国東インド会社の商流を受け継いだ会社は、今日でも香港で巨大財閥として活動しており、学生にはこのような歴史の繋がりを伝えたい。)そして、化石燃料から動力エネルギーを得ることを実現させた産業革命が大量生産を可能にする生産部門を構築した。このように巨大な資本主義株式会社が誕生したのである。
また、J.Lockeが「私有」の概念が生み出したことで、市民は大量に生産された商品の「消費者」、際限無き「所有者」となり、企業はこれら欲求を満たすことでの利潤を競う社会となった。このような我々の社会生活の結果、地球温暖化問題が生じたのである。C. Pontingは、経済学が地球資源を無視したことが利潤獲得競争を許したと批判した(環境問題と社会構造の関係を20年かけて研究して「A Green History of the World」を著しており、学生にも一読を薦めたい)。なお、J.Lockeが私有を認めたのは、理性という法の下で、開墾という労働から価値を創出することを前提としたものであった。
岸田首相の唱える新しい資本主義の理論を支える原丈人は、「公益資本主義」として、我々に「制度」のあり方を問うている。制度という面では、宇沢弘文がT.Veblenの制度論を発展させて、社会的共通資本を提唱していた。社会的共通資本とは、豊かな経済生活を営み、優れた文化を展開し、人間的魅力ある社会を持続可能にする社会的装置であるとされる。
問題解決のカギは、我々の社会の選択である。茅恒等式のCO2構造分解の中で、 「(GDP/人口) × 人口」は、「GDP/人口(欲求を満たす生産) x人口(物質欲求)」となるのではなかろうか。宇沢は、C.Mengerの帰属価格モデルを基に、CO2の帰属価格を国民一人当たり所得と近時させる定数θは、CO2蓄積量変化と、国民の温暖化の深刻度の認識とした。すなわち、物質的欲求を満たしてGDPとCO2が増加する社会に対して、地球温暖化問題の深刻度の認識を高め、所得と炭素価格を連動させることで生活と地球温暖化の抑制の均衡を図るような社会モデルを示す役割がわが学会にも求められるのではなかろうか。
このような社会のあり方を含めて、構造的な問題解決策を学生一人一人が考えられるように示していくとことが大切であると考えるものである。(2022年8月13日)