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『北海道の物価問題』 長岡 正

最近の資源価格の高騰や国際情勢の緊迫化などにより、広範囲にわたる値上げが全国で相次いでいる。これまでの値上げと言えば、企業が減収防止のために価格を据え置いて密かに数量を減らす「ステルス値上げ」(実質値上げ)が一般的であった。それではもう対応できないようだ。ある回転寿司のチェーン店では、創業以来初の値上げという。
ところで、地方は首都圏などよりも物価が安いと思われている。だが、実際には求人数が少なく給料も安いため、かえって高いこともあるようだ。人口減少を背景に各地で課題が山積している。北海道では以下の2点を考慮した対応が必要であろう。
その1つは輸送費や保管費などの物流費である。北海道で消費される物品の多くは道外産であり、道までの輸送に加えて、道内各地への広範囲にわたる配送も必要である。最近の通信販売では高額なものを除き、送料を地域別に設定している。かつては全国一律「送料無料」であった。しかし、実際には無料での物流などは不可能であり、過度な利用は環境問題ともなるため「当社負担」(売手負担)へと表記を改めつつある。
通信販売以外でも個別企業の配送では負担が大きく、コスト削減と環境対策が同時に達成可能な共同配送が全国で実施されている。製造や販売では競争しても、物流では提携が基本となっている。北海道では都市間距離が長いため、他の地域よりも実施の必要性が高い。飲料や家電など同業者による取組みに加えて、最近では飲料と書籍という変わった組合せも見られる。人手不足に起因した物流費の高騰が全国的に憂慮されてきた。個人宅へのドローン配送や貨客混載などの実証実験も全国に先駆けて行われている。まずは道内物流の効率化を徹底すべきであろう。
もう1つは暖房費や除雪費などの寒冷地対策費である。寒冷地では工場や店舗で要する暖房費を価格に一部転嫁する。北海道の最低賃金は九州や四国より若干高くても、それ以上に家計に占める暖房費等の割合が非常に大きい。また、家計、企業および自治体がそれぞれ負担する除雪費も相当な金額となる。このうち暖房では、寒冷地対応の省エネ技術が導入されてきた。他方、除雪では一連の技術は確立しても、事前に相当な準備が必要な上に、特段の価値を生じず、改善が求められている。
さらに、除雪では処分場まで雪を搬送する排雪による負担が大きい。業者が個別に行う場合、今年のような大雪では車両の手配も難しかったようだ。この点では上記の共同配送の考え方が参考になろう。たとえば、排雪方法を共同化して除雪全体を効率化すれば、負担の軽減とともに結果としての環境配慮も期待できる。
さて、北海道では人口減少とともに、札幌市への一極集中が問題視されてきた。札幌市とそれ以外の地域との行政サービスも格差が拡大している。ところが、札幌市でも昨年には戦後初の人口減少となった。今後はどこにでも住める状況ではなくなり、コンパクトシティ構想に基づく、各種事業の集約が計画されている。この構想には課題も指摘されるが、少なくとも上記2点の改善により一定の効果が見込めるであろう。新たな取組みによる発展の可能性に期待したい。(2022年5月11日)