
『啐啄同時(Right Place, Right Time)』 岡本 享二
2022年1月12日
あけましておめでとうございます。
本年は当学会の飛躍の年にせねばなりません。
ビジネスや学会活動を通して、色々な方々と素晴らしい出会いの機会を得ながら、うまく活かせなかったケースも多かったというお話をこの紙面で紹介したことがあります。啐啄同時とはよく言ったもので、両者の出会いのタイミングが大切なのですが、私の未熟さに起因して人生の先達に対して失礼な振る舞いをしてしまったことや、薫陶を活かすことができなかったことがありました。心に残る失敗談を元に、今年の抱負(飛躍)につなげたいと思います。
西澤潤一先生(1926年〜2018年)は環境経営学会創立時の発起人であり、学会の初代会長でした。その先生から2006年の夏、唐突に「都立大のMBAに企業倫理の科目を作りたいので担当してほしい」と声を掛けていただきました。戸惑っていると学部長の森本先生が自宅に来られて「企業倫理を固く考えずに『CSR入門(日経新聞社:現在13刷り)』で述べているCSRを基調にした倫理論を展開してほしい」と諭されました。西澤先生が拙著をお読みになった上での依頼と納得しましたが、それでも『CSR』と『企業倫理』をどう結びつけるか迷いました。結局、今日まで継続して講座を続けることができたのは、西澤先生の先を見越した示唆とサポートであり、私自身も『CSR』に縛られることなく、社会から学ぶ姿勢を貫くことで受講生とともに成長できたと思っています。
啐啄同時とは行きませんでしたが、親鳥が先に殻を破ってくれたお陰で、雛が外に出てからなんとか成長できたケースだと今でも感謝しています。
宇沢弘文先生(1928年〜2014年)とは、ほろ苦い想い出があります。
宇沢先生は最晩年まで日本政策投資銀行の顧問として『環境と経済に関する研究会』を主宰されておられ、私もそのメンバーの末席をけがしていました。
あるとき先生の発案で「IBMの環境対応」のテーマで私が話すことになりました。勇躍話し始めたものの、肝心の先生は 7〜8センチはあろうかという書類の山を横に置いて、目を通してはチェックしたり書き込んだり、話を聴いていただけているようには見えません。少々がっかりして御座なりなプレゼンテーションに終始してしまったのですが、話終わるや先生は開口一番、「IBMならもっと哲学的な話が聴けると期待していたのに残念だ」とコメントされ、私は顔から火が出る思いでした。
環境問題やCSRを哲学的見地から話したいと常々私自身も思っていたにもかかわらず、先生が何者であるかを知らずして、一般受けするような各種施策の羅列に終始したのです。それ以来、先生の功績や活動に注目し、文献を渉猟するようになりました。
啐啄同時どころか、あまりに親鳥の存在が大きすぎて我々ヒヨコどもは殻から抜け出した後も、先生の軌跡を追いかけている状況です。
小池ゆり子、現都知事との会合は年代も近くて総じて楽しい想い出です。
当時、自由民主党員であった小池さんが、炭谷茂さん(元環境政務次官)を座長に据えて『環境と社会の勉強会』を議員会館501号室(自室)で主宰されていました。私もメンバーとして参加しており、2年半で23回の会合が行われたと記憶しています。
「モノを作るときにはライトサイジングが大切です。計画的な環境配慮設計で適切な資材(=資源)の使用にとどめるべし」との趣旨で熱弁を振るっていると、小池さんから手が挙がって、「岡本さんのおっしゃてるライトサイジングのライトはRですか、Lですか?」と質問が飛んできた。語学に堪能な小池さんのこと、確かにRとLでは意味が違ってきます。私は慌てて舌を丸めて「Right」ですと即答。炭谷さんがすかさず「Right sizing(適切なサイズ)でつくれば、Light size(軽い製品)になりそうだね」と助け舟を出していただき、皆で大笑いしました。
このとき小池さんは「Right Place, Right TimeのRightですね」と確認されたのです。何気なく聞き流した英文でしたが、“In the right place at the right time”は、日本語では啐啄同時と意訳されていることを後に知りました。
年頭にあたって環境経営学会が社会や企業と啐啄同時にならねばならないとの思いがあります。20年前に当学会が創設された当時は環境経営度審査に代表される斬新なアイディアで社会や企業を先導していました。20年経った現在は、企業にも社会にも10年くらい遅れているように感じています。
宇沢先生がお亡くなりになった2014年は環境問題の解決方法が大きな転換点を迎えた微妙な年です。2012年がAI元年と言われるように、それ以降のAIやIoTの急速な発展でSharing EconomyやCircular Economyの波が欧米を席巻し始めたのが2014年前後です。EUを中心にThe ZERO Marginal Cost Societyの概念も明確になり、ドイツ、北欧、アメリカでは最新科学技術を利用して大きな社会変革を推進しています。
企業では自らのビジネスの中に環境問題やCSRマターを起こさせない経営が進んでおり、むしろ環境や社会問題を解決することを社是に掲げる企業群が出始めてきました。このような社会変革に遅れを取らないよう、当学会として次のことに重点を置いた活動を、執行部一同で全力を尽くします。
・事務所に代表される固定費の削減。
・研究会活動の活性化。
・発表論文の高度化と広範化。
・学会情報の適切な発信。
これらを実現するために今年の前半に大きな変革を予定しています。
皆さまと力を合わせて社会との啐啄同時を実現させましょう。(1/12/2022)