
『ESG投資の減少をどう理解したらよいか?』 宮崎 正浩
2025年4月10日
最近、ESG投資は米国を中心に減少に転じている。その原因は、新聞報道によると3点に要約できる。(1) 米国では投資において社会や環境などの政治的な側面を考慮するESG投資に反対する政治的な圧力が高まっている。(2) 企業のESGへの取り組みは見せかけである場合(ESGウォッシュ)が多い。(3) 機関投資家には受益者の利益を最大限尊重すべきであるとの受託者責任があるのに対し、ESG投資は期待されるリターンを挙げていないと批判されている。
CSRと財務業績の関係については、従来の経済学では負の関係にあると考えられている。一方で、CSRは社会や環境面での負の影響を回避でき、また、社会的価値と経済的価値に共通する価値を創造すること(CSV)により中長期的な競争力を得られるとの考え方がある。どちらが現実に近いかを判断するためには、過去のデータを分析する必要があり、すでに多くの研究が行われている。
例えば、Whelanらが2021年に公表した論文「ESG and financial performance」は、2015年から2020年の間に発表された1,000本以上の研究論文を調査し、ESGと財務業績との関係を比較した。その結果、企業側の研究では、企業のESGと財務業績(ROEやROA、株価など)の関係は、58%がプラス、13%が中立、21%が混在、8%がマイナスであった。一方、投資側の研究では、ESG投資のリターンは、従来の投資アプローチと比較し、33%がプラス、26%が中立、28%が混在、14%がマイナスであったことから、「ESG投資の59%が従来の投資と比較してプラスまたは中立的なパフォーマンスを示し、マイナスを示したのは14%に過ぎなかった」と結論付けている。このことは、過去のデータに基づく研究では、ESG投資は投資家の受託者責任に反するものではなかったという主張の根拠となるであろう。
一方、ESG投資は投資家の倫理観による投資でもある。このため、投資先の選定の際には財務業績のみではなく企業のESGを考慮するという選択肢を維持することは責任ある投資といえるのではないか。また、ESGウォッシュが多いという批判に対しては、最近ではESG情報開示の国際的なガイドラインの策定・普及が進んでいるので、今後改善が期待できる。いずれにしても、今回のESG投資の減少は、ESG投資の意味を改めて考える契機にはなったと言えるであろう。(2025年4月10日)