
『環境経営はReactive Stage⇨Proactive Stage⇨Holistic Stageへ』 岡本 享二
2025年1月15日
夏目漱石の特異で幻想的な小説『夢十夜』の第九夜は、次のような書き出しで始まっている。「世の中がなんとなくざわつき始めた。今にもいくさが起こりそうに見える」、この書き出し同様、そこはかとなく不安を覚える年明けである。
なぜだろうか?
①トランプ2.0と世界のリアクション
②気候変動、地震、風水害、山火事などの自然災害の頻発と大型化
③生成AIなどの科学技術が必ずしも生活の安全と安寧に寄与していない現実
④日本国内に目を移しても、治安の悪化と近隣諸国との不安定な国際関係
上記②~④についてはFactとして万人がほぼ同じような感想を持っているのではないだろうか。一方、①の「トランプ2.0と世界のリアクション」については、期待と不安が相半ばして人それぞれの考えがありそうだ。
まず、トランプ2.0のこれまでのFactを押さえておこう
トランプ2.0の波は2024年世界各国の政権にも波及した。フランスではマクロン大統領傘下で3人も総理大臣が代わった。ドイツの現政権も不安定であり、政権維持が危ぶまれている。ポーランド、ブルガリアなど東欧諸国も既存政権の政変危機に見舞われた。年末年始にかけて起こった韓国の戒厳令に端を発した社会の混乱は世界の混乱にもつながる恐れがある。そうこうしている内に、カナダのトルドー首相が今年になって辞任を発表した。
80年周期の歴史のパラダイムシフトは繰り返すのだろうか?
世界は80年周期でパラダイムシフトを迎えてきた。1780年代、1860年代、1940年代、そして2025年(2020年代)である。パラダイムシフトとは、どちらかと言うと明るい未来に対して使われてきた言葉である。今回のパラダイムシフトは悲観的である。
・気候変動による世界の気温は2023年、2024年と過去最高を各地で更新した。呼応するかのようにロサンゼルスの山火事、世界各地の風水害も顕著である。
・生成AIなどの科学技術が必ずしも生活の安全と安寧に寄与していない現実に対して、解決の糸口さえ検討できていないのが世界の現状である。
・日本国内に目を転じても、治安悪化は日々のニュースを通して緊張感と恐怖さえ覚える。近隣諸国との不安定な国際関係もWar Man、Tarif Man、Rocket Manと揶揄されている内は傍観できていたが、微妙な国際関係を反映してどう揺れるか見通しが立たない。
このような不安定な世界情勢の中で、学会としての方針や研究課題を提唱することは返って道を誤る。大局的に見て注意を払いたい項目を挙げておきたい。
目に余る「環境/CSR/SDGs関連のGreen Washing」の見直し
環境経営学会の創設期(20年前)は今で言うところのReactive Stageであった。欧米を中心とした環境/CSR/SDGsを国際基準、法令、Initiativeに沿って紹介することで、日本の企業/社会に環境/CSR/SDGsの普及に貢献してきた。
好事例として『環境経営度調査』がある。多くの一流企業が参加して環境/CSRのLiteracyを高めることができた。当時の学会員は「環境経営と言わなくても、経営と言えば環境経営が当たり前の時代になるといいね」と言い合っていたものだ。そして、21世紀を境に急速に「経営=環境経営」が実現した。そうした時代の変化の中で「見せかけの環境/CSR /SDGs」が見られるようになった。
Green Washingが大きく是正されるトランプ2.0の世界
バイデン政権の環境政策の最先端と言われてきたEV車に対する補助金(約100万円)をトランプ政権では廃止する。その背景には長期的な視点とGreen Washingの排除が見られる。米国の自動車総数2億4700万台(2020年)は2030年には4400万台に減少する(1/5以下)と予測されている。Car Shareと自動運転による走行時使用率が伸びるからである。EUでも Jeremy Rifkin らが中心になって社会全体での効率化を進めている。「いかにも環境政策に則っているように見える目先の施策」から、長期的な社会変革を見越した、無駄のない政策である。トランプ2.0の世界では、同様の手法で多くのGreen Washing案件が見直されることになるだろう。
環境経営学会は1990年代のReactive Stageから、Proactive Stageとして企業自らが行動して、製品や社会貢献を社会に発信する体制をサポートして来た。
2020年代はHolistic Stageへと変遷させる必要がある
トランプ2.0 で垣間見られるように、日本、中国は欧米と大きな違いがある。日本の車メーカーは車にAI/Computerを搭載して車の性能を上げることに血眼になっている。中国では増加する車に対応するために道路などインフラ造りに必死であって、これらはいわばProactive Stageの典型的な例である。自分のところだけ競争優位を確立し、「車の売り上げを伸ばそう」とする日本の各メーカー。「車が増えるから道路を作って時代の変化と社会の需要に合わせよう」とする中国政府。いずれもProactive Stageでは効果的だったが、いまやHolistic Stageの時代を迎えている。
そもそもHolistic Stageとはいかなるものであろうか?
日本の車メーカー対アメリカの車社会の視点が興味深い。日本ではAIやComputerを搭載した優秀な車を作って事故を防ぎ、環境対応を強力に推進することに各メーカが注力する。翻ってアメリカの車社会の捉え方は、社会全体として事故を防ぎ、車の使用効率を上げて環境/CSR/SDGsの追求を行なうことである。車は単なる人を運ぶ箱であって、個人的な満足を充足させるItemではないとの大方の考えである。
一方、中国では車社会の到来を予測して道路、橋、トンネルなどのインフラ作りを進めて来た。インフラには維持管理、補修が付き物で、中国ではインフラ疲れが出ていると警鐘を鳴らす学者もいる。
Holistic Stageでは高度なPhilosophyが不可欠である。Philosophyは人間が考えるとして、それらの仕組みを実現させるのがAI/IoTに代表される最新科学技術の適用である。ここまで述べて、お気付きのようにHolistic Stageでは共生の社会、綿密な政府との政策の打ち合わせ、そして何よりも時間軸を捉えたHolistic な思考が重要になる。
考えることも生成AIに委ねますか?
少なくとも20年代は人間が考えて、より良い社会の構築に邁進する必要があると思う。そして時代の変化を見る時間軸の視点を持ったHolistic Stageに叶った学会活動を、見える形で推進していく所存である。(2025年1月15日)