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『北海道の鉄道事情』 長岡 正

鉄道会社が公表する線区別収支に注目が集まっている。運賃の値上げ、線区の縮小または廃止が懸念されるためか、赤字線区の住民は不安を禁じ得ない。そうならないように、沿線自治体による株式取得も報じられたが、あまり効果はなさそうだ。
さて、北海道では全線区が基本的に赤字であり、その程度や増減が注目されてきた。適正な赤字とは何かという議論もある。決算では本業の成果を示す営業損益の段階で大幅な赤字を計上し、国からの助成金等により、経常損益を経て最終損益に至る間で赤字幅を徐々に縮小させるのが毎年の状況である。赤字になることは、会社設立前から分かっていたため、事前に基金が交付され、運用により補填する計画であった。ところが、長期にわたる経済不況や低金利により、基金運用による成果は十分でなく、助成金等でどうにか存続しているようだ。鉄道会社の経営改善では、鉄道輸送部門の効率化とともに、同部門以外の強化も求められる。幸い観光資源は豊富なため、この点ではまだ可能性が残されているだろう。
地球温暖化の影響であろうか。北海道でも豪雨災害が多発して経営悪化に拍車をかけている。線路の冠水や流出などの被害も多い。主要な幹線以外では、不通になるとまずは様子見である。沿線自治体との協議を経て、最終的には廃線となってきた。たとえ修繕費用を負担しても、その効果を考えると、修繕しないことが合理的な判断となる。廃線後はバス転換となっても、利便性の低下などから利用者がさらに減少して、不首尾に終わることも多い。かつて本州にある鉄道会社では、社会的責任として不採算な線区を復旧させていた。やはり社会的責任では、健全な財務基盤を必須とする。
寒冷地にある鉄道では除排雪が不可欠である。九州にある鉄道や寒冷地の他の交通機関と比較すれば、負担の違いは明らかであろう。最近では十分な費用を捻出できないのか、大雪に伴う運休が多発している。計画運休も実施され、札幌周辺でも行われていた。鉄道のみが運休、それ以外の交通機関は平常運行という事態も珍しくない。バス会社やタクシー会社では、道路の除排雪をしなくて済むし、運行できなくても道路管理者の責任である。鉄道会社の場合にはそうはいかない。
北海道は面積が広く人口密度も低い。そのような地域にある鉄道の民営化は、そもそも無理があったという主張も根強い。このためであろうか、国は時限的な助成金を継続している。その一方、民間経営では不採算部門を放置できず、整理縮小に取り組まざるを得ない。輸送密度などで区分した「当社単独では維持することが困難な線区」も公表されてきた。モータリゼーションによる影響があったとしても、最盛期には4,000キロほどの路線が、今では2,400キロ以下となり、駅のない自治体も半数近い。無人駅の廃止も加速させているため、開拓前の広大な原野も復活しそうだ。
以上のような状況にあっても、当面する都市間輸送や貨物輸送では、鉄道に一定の役割が求められるため、廃線と値上げを繰り返しながら適正な規模となって存続するであろう。廃線によるバス転換もドライバー不足などから困難となってきた。ライドシェアの導入など、環境面以外にも持続可能な交通のあり方が模索されている。北海道では不利な条件も重なって早期に顕在化したが、厳しい状況が懸念される地域は全国に広がりつつある。今後の人口減少を見据えれば、コンパクトなまちづくりと併せた包括的な取り組みが強化されるであろう。(令和6年8月8日)