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『「社会起業」再び』 九里 徳泰

2020年4月に日本の専門職大学院としては初めて、かつ日本の女子大学では初めてのMBAコースを持つ「社会起業研究科」を相模女子大学に設置することができた。社会の大きなうねりを受けてか本年度の5期生は定員に近い26名が入学をした。その理念は「ビジネスを通した社会課題解決を担う実践的な職業人育成」である。私は、1992年に米国でパタゴニア社の経営の長期取材を行ってから環境経営を行う企業の調査と分析を行ってきた。当時パタゴニア社の調査で驚いたことはミッションが「環境問題解決」であるということと、そのために「売上の1%を環境保護団体に寄付をする」というものであった(利益ではなく売上である。赤字決算でも寄付をすることを意味する)。2001年の本学会第1回のグリーン五月祭で私はこの研究成果の発表をしたが「1サンプルではないか」というコメントもいただいた。このような社会問題解決を一義とする企業の主流化はどのようなプロセスを踏めば企業に実装できるのだろうか。そのポイントは企業におけるイシューの発見だと思った。現在ではマテリアリティの特定と言っていいだろう。企業が的確に社会課題をつかみ、その解決へのプロセスを踏むこと。それが環境経営でありCSR経営である。

一橋ビジネスレビュー 2009年度VOL.56 NO.4 特集:ソーシャル・イノベーションにおいて、谷本寛治先生は「ソーシャル・イノベーションとは、世の中に散在する社会的課題を認識し、その解決を目的としたビジネス(ソーシャル・ビジネス)の創出を通じて社会変革に資するイノベーション活動である。「ソーシャル・イノベーション」や「社会事業家」という言葉は広く流布しているが、われわれはそれらを包括的に理解しているとはいいがたい。」と記している。その現状はまだ変わっていなのではないか。
社会起業家というと2006年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏のバングラデシュの金融機関グラミン銀行とマイクロクレジットをまずは思い浮かべるだろう。同時期に、C.K. PrahaladとStuart L. Hartによる著書“Fortune at the Bottom of the Pyramid: Eradicating Poverty Through Profits”が注目を浴びた。いずれも開発のイシューのビジネスを通した解決で、経済的先進国のイシューには目が向かなかった。

2008年の経済産業省「ソーシャルビジネス研究会」では社会的企業について①社会性、②事業性、③革新性の3つの要件があるとされ、以下が提示された。
① 社会性 現在解決が求められる社会的課題に取り組むことを事業活動のミッションとすること。
② 事業性 ①のミッションをビジネスの形に表し、継続的に事業活動を進めていくこと。
③ 革新性 新しい社会的商品・サービスや、それを提供するための仕組みを開発したり、活用したりすること。また、その活動が社会に広がることを通して、新しい社会的価値を創出すること。
(出典:https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/286890/www.meti.go.jp/press/20080403005/03_SB_kenkyukai.pdf)

3つの要件は今も変わらない。ではどのように社会的企業を生み出すのか。
P・F・ドラッカー「ネクスト・ソサエティ」(邦訳版2002年刊)での、“Be a change agent.”=「組織が生き残りかつ成功するためには、自らがチェンジ・エージェント、すなわち変革機関とならなければならない」との考えを用いたい。チェンジ・エージェントとは「変化をマネジメントする最善の方法は、自ら変化をつくりだすことである」とし、「既存の組織にイノベーションを移植することはできない」と喝破している。
私の大学院においては、チェンジ・エージェントとなる人材育成をし、世に送り出したいと考えている。(令和6年4月13日)