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『サステナビリティ時代のFACTFULNESS(ファクトフルネス)のすすめ』 片山 郁夫

毎年興味深く結果に注目している調査がある。第一生命保険株式会社の「大人になったらなりたいもの」というアンケート調査(対象:小学生・中学生・高校生)をご存じだろうか。私たちの世代の感覚だと、「スポーツ選手」、「パイロット」、「宇宙飛行士」、「学校の先生・教師」などが子どもらしく夢や憧れなどが感じられ、なるほどと合点がいくところだ。最近の事情に明るい方であれば、「YouTuber」、「ゲーマー(ゲームクリエーター)」が人気があることは知っているよ、という声が聞こえてきそうだ。では、今年3月の第34回調査結果はどうだったのか。実は、小学生・中学生・高校生男子、中学生・高校生女子で「会社員」が第1位だったのである。唯一トップでない小学生女子でも「会社員」は第3位にランクされている(第1位は「パティシエ」)。また、その職業になりたい理由では、「好きだから」、「人の役に立ちたい」などが目立つ。さらに、調査では「会社員」を選択した子どもたちに具体的な仕事について尋ねている。会社員とひと言で言っても仕事の幅が広いことを考えると、当然の更問いである。そこでは、「科学技術・ものづくり」、「鉄道」、「商社」、「自動車」、「ファッション・美容」、「旅行・レジャー」、「食料・飲料」、「環境・エネルギー」、「金融」などが上位を占めている。

どうやら今の子どもたちは私たちの時とは違って、現実の社会でどんな職業がどのようなことに関わり、世の中にどのように関わり、世の中にどのような貢献をしているのかなどについて結構承知しているようだ。人の役に立ちたいということは言い換えると、社会課題の解決に関わりたい、世の中をより良くしたいという意味合いもあると思われる。別のアンケートによれば、Z世代や子ども世代のSDGsや環境問題に関する意識は大人世代よりも高いという結果もあるという。そのように考えると社会の変化とともに職業観そのものにも変化が起こっているのではないかという意見にも一定賛同いただけるだろう。

その理由は何か。TVドラマ、漫画、アニメ、インターネットサイト、各種SNS・・・現代の子どもたちはデジタルネイティブという言葉があるように物心ついた時から当たり前のようにデジタル環境があり、早くから様々な情報と接点を持っていることが大きいだろう。もちろん、親世代や学校教育からの学びもあるはずだ。

H・ロスリングらのベストセラー『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』では、SDGsで話題になるような様々なデータ(貧困・平均寿命・予防接種・学校教育など)を使って、私たちの認識がいかに思い込み(過去に得た知識・経験をもとに今も変わらぬものとして思考してしまう傾向)に満ちており、同時に(ずいぶん変わっている事実を知ると)世の中は案外捨てたものではない、ということに気づかせてくれる。私たちは、社会問題をついつい改善が進まない悲観的課題だと捉えがちだが、実は過去10年、20年の間に大きく改善したものも多いのである。やはり知識をアップデートすることは大切である。

サステナビリティ時代には、職業観に限らず、私たち自身が認識している事実(ファクト)のアップデートなくして、サステナビリティもSDGsも語れないのではないか。もしかすると、現代の子どもたちは多くの大人よりも世界や日本の現状を正しく捉え、そのうえで明るい未来に想いを馳せているのかもしれない。もっとも、子どもたちに期待するだけでなく、こちらも(大人も)せっせとサステナビリティ時代ならではのFACTFULNESSに努めていかねばならない。(2023年10月13日)。