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『ChatGPTとセクターカップリング、そして広義のモビリティー産業を考える』 森田 裕行

前回はChatGPTの話題でした。そこでMicrosoft Edge版のchat GPTに「セクターカップリングとは」と質問してみました。

「セクターカップリングとは、電力部門を交通部門や産業部門、熱部門など他の消費分野と連携させることで、社会全体の脱炭素化を進める社会インフラ改革の構想です。再生可能エネルギー電力を最大限活用する方策としてドイツにおいて提案された考え方であり、日本でも様々な実証事業が行われています。この回答は、web検索結果から得られた情報に基づいています。」と回答が続き、引用元もリンクで確認できます。その後、提示された複数の選択肢から質問を選択して行くと、回答が続きます。わたし自身がセクターカップリングに関して調べ始めた頃にChatGPTがあったとすると、「もっと短時間で概要を把握できただろう」というのがこの一連の回答に関する感想です。現時点では「学び」、特に入門時の学びを加速する道具としては有効かもしれません。
個人的には、ベルリン工科大学のセクターカップリングの講義資料(英語版)、東北大学の中田先生のセクターカップリングに関する発表や研究室で開発・運用されている「地域エネルギー需給データベース」に触れてくれると面白かったのですが、まだまだ限界がありそうです。しかし、今後アップデートが続くChatGPT及び様々な生成AIが存在する前提で今後を考え、未来を構想する必要があると感じています。

ところで、米国やEUでは今回ChatGPTに質問した「セクターカップリング」を前提として様々な施策が実施されつつあります。その結果、と個人的には考えているのですが、世界的な現象の一つとして広義のモビリティー関連企業の上場数の急増が続いています。既にNASDAQとNYSEを中心に世界では、BEV専業メーカーが37社、EV Charging企業は7社、battery companiesとして28社、ライドシェア企業は5社上場しています。また、Auto & transportationというカテゴリーで34社のユニコーンが確認できます。これらのリストには日本企業はありません。ここでリストアップした企業は、多くが直接金融を効果的に使った資金調達と設備投資・指数関数的な急成長を実現しています。単一事業のスタートアップとして創業、深いJカーブを描き、膨大な赤字と共に指数関数的な成長を実現し、その後ユニコーン化した後に上場します。TESLAはその後黒字化し世界時価総額のTOP10社の常連です。また、ここ数年はSPACとの合併で上場した企業がこの分野でも20社以上確認できます。
米国のハーレーダビットソンは、2022年2月に電動バイク部門をLiveWire Group, Inc.(ハーレーダビットソンの保有株式75%)として切り出し、SAPCと合併・上場させました。また、日本のスタートアップのAERWINS Technologies(電動ホバーバイクの開発・世界の富裕層に販売)は、今年の2月にPONO Capital Corp(SPAC)と合併、NASDAQに上場しています。
EUではセクターカップリングで広範囲にGHG排出削減効果を上げようとしていますが、背後にはデジュールスタンダード戦略が存在していると考えられます。米国ではTESLAがエネルギーマネジメント企業として垂直統合型のアプローチを進め、デファクトスタンダード戦略を単独で進めています。世界最大の鋳造装置で170点の部品を2つの部品に置き換え(中国BEVメーカーも導入?)生産ライン面積を3分の1程度に縮小し、生産台数を飛躍的に伸ばそうともしています。また、一方でフィスカー社(BEV)はホンハイ精密工業との共同開発で水平分業を進めています。残念ながら「日本はこの分野でも既に20年失っているのではないか?」というのが個人的な感想です。

ChatGPTにどう向き合うのか?飛躍的に進化を続けている広義のモビリティー産業の動向にわたしたち日本人はどう向き合うのか?10年後、20年後に日本の立ち位置はどうなっているのか?個人的な関心事です。(2023年5月14日)。