
『サステナビリティでもジャイアントキリングを目指そう』 宮崎 智子
2022年12月7日
FIFAワールドカップカタール2022では、日本代表が「死の組」と言われるグループEにおいて優勝候補のドイツ、スペインに勝利し、グループ首位で決勝トーナメント(16強)進出*を決めた。筆者を筆頭に多くの日本人が予選突破は無理だと思っていただろう。
しかし、選手は違っていた。インタビューでのコメントは「強豪国にビビっている選手は誰もいない」、「彼らの方が実力があって、クオリティーがあるのは間違いないと思いますけど、自分たちは本当に勝てると思っていたし、最低でも勝ち点1は取れると思っていた」など、勝利への自信に溢れていた。想像を絶する努力をしてきたからこその発言だが、グローバルなフィールドで戦う心構えという点において、日本のビジネス界は学ぶべきではないだろうか。
近年、深刻化するサステナビリティ課題に対応するために、国内外において政府や規制当局が矢継ぎ早にサステナビリティ情報開示への対応を進めている。
日本でも2022年11月に金融庁が「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案を公表、2023年3月31日以後に終了する事業年度における有価証券報告書からサステナビリティ情報の開示を義務化する方針を示した。欧米で既に取り組みが進んでいる開示義務化の流れに追随する形となった訳だが、残念ながら内容に関しては、一歩引いている感が否めない。
第一に、サステナビリティ情報についてはTCFDの枠組みを適用し「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標及び目標」の4カテゴリーの開示を要請しているものの、開示が必須なのは、「ガバナンス」と「リスク管理」のみで、「戦略」と「指標及びリスク」に関しては、各企業が重要性を踏まえて判断することを認めている。
第二に、GHG排出量に関しては、各企業の業態や経営環境等を踏まえた重要性の判断を前提としつつ、Scope1及び2のGHG排出量については積極的な開示が期待されるという記載に留まっている。Scope3については、言及すらされていない。
国際的なサステナビリティ報告基準を開発するための国際サステナビリティ基準設定主体ISSB(International Sustainability Standards Board)が2022年3月に公表した「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的な要求事項(IFRS S1)」と「気候関連開示(IFRS S2)」からなる新フレームワークの草案では、情報開示の枠組みとして「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標及び目標」が採用されており、またGHG排出量についてもScope1から3までの二酸化炭素排出量の情報開示を求めている。
今般の金融庁の改正案は、日本企業の各課題への対応の時間を配慮したものという意見も聞かれるが、この配慮こそが国際競争力の低下に繋がるのではないかと憂慮している。日本企業は、既存の顧客のニーズに合わせ、自社製品はサービスの価値を向上させるために継続して生み出される持続的イノベーションを得意にしていると筆者は考えている。どんなに高いハードルがあっても臆することなく、弛まない努力と創意工夫で価値を向上し続け、サッカー日本代表同様にサステナビリティの領域においてもジャイアントキリングを起こす気概をもって取り組みを進めて欲しいと願っている。(2022年12月7日)
*決勝トーナメント1回戦で日本代表はPK戦の末、惜しくもクロアチアに敗れました。日本中に勇気と感動を与えてくれたサッカー日本代表に心より感謝と敬意を表します。