
『資本主義の基盤環境 ~ネット環境~』 丸山 秀一
2022年11月6日
市場に任せれば全てが上手くいくという新自由主義的な考え方が生んだ様々な弊害を是正するため、成長と分配の好循環による「新しい資本主義」という考え方が岸田総理から提唱されている。また協力を通じより公正で持続可能かつレジリエンスのある未来のために、経済・社会システムの基盤を緊急に構築するという「グレート・リセット」が2021年のダボス会議のテーマとなっていた。資本主義という経済システムの限界を多くの人が感じるようになり、システム変革の議論が活発となっている。この経済システムのうえで政府や企業など様々なステークホルダーが活動しており、例えば企業は、サステナビリティ経営やベネフィットコーポレーションなどバージョンアップの動きが活発化しているが、経済システム自体もバージョンアップを迫られている。
この資本主義というシステムがどのように変革するかを考えるのが主題ではあるが、本稿ではその主題を離れて、このシステムが動作する基盤となる環境について考えてみた。環境といっても様々な環境が考えられるが、最も重要な環境は“地球環境”であり、それが崩れてはいかなるシステムも動作しない。そして資本主義というシステムは地球環境のリソースに過大な負荷を与えている。しかしここではもう一つ別の環境として“ネット環境”を取り上げる。
物理的な地球環境と異なる特徴の一つとして、“場所”の制約がないことが挙げられる。農業は土地を集約することで効率性が高まり、工業は工場や設備などの資本を集約することで効率性が高まる。サービス業は人を集約し都市化することで効率性が高まる。これらはいずれも物理的な“場所”の制約を受け、その場所を統治する国家や自治体の影響を受ける。一方ネット環境は世界中のネットワークを通じて情報が行きかい商取引が行われている。それらの活動を、場所を統治する国家や自治体が制御することは難しい。従来とは別の空間であるネット環境の上で資本主義というシステムがどのように動作するのか、そしてそれを誰がどのように制御するのか、従来の政治と経済の関係性が崩れ、政府が制御する仕組みとは別の新たな仕組みが必要となると考えられる。
一方、地球環境とネット環境が似ている特徴としては、“所有”の概念が挙げられる。地球環境に存在する土地や木や水などはもともと所有されておらず公共のものであったが、資本主義の中で所有の概念が発展していった。ネット環境における知識や情報も、あえて所有せずオープンにすることで、誰しもが自由に情報を扱うことができたが、近年ではプラットフォーマーによる情報の所有と集中が進んでいる。またNFT等により更に情報の所有が進むと考えられる。
資本主義が踊り場を迎える中、今後どのように変革するか、そしてその新しいシステムのうえで企業経営がどうなっていくかは重要なテーマであるが、本稿では少し視点を変えて、資本主義の基盤となる環境の変化についてネット環境を取り上げ考察してみた。人類が初めて手にする国境も人種の壁も言葉の壁もない空間で、どのようなシステムが形成されるであろうか。(2022年11月6日)