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『エシカル消費研究の序論』 浜野 隆行

「エシカル消費」という言葉はまだ世の中に一般化していないが、徐々にトレンドワードになりつつある。例えばGoogle社が提供している検索ボリュームを時系列に比較できるGoogle Trendにおいて「エシカル消費」は2020年と2022年を比較すると平均約3倍程度も検索されていることが分かる(図1)。またエシカル消費は学術的にも研究が急増している。図2はElsevier社が提供する論文検索ツールScience Directを使って「ethical consumption」に関連する論文数を時系列にグラフ化したものである。ここ3年で約60%増加しており学術界においても世界的に注目されているトピックスである。特異な点として非常に学際的であることが挙げられる。インパクトファクターを考慮した論文検索を行ったところ社会科学、地理学、政治学、ジェンダー研究、哲学、宗教学、歴史学、経営学、マーケティング、経済学、計量経済学、金融、心理学と多岐に渡る分野の研究者、ジャーナルの中で議論されている。ただ残念なことに日本の学術界においてエシカル消費に関連する論文は非常に少なくマーケティング系のジャーナルで議論される以外は政府関連やシンクタンクの調査や討議が先行している状態である。本項では日本の学術界においてもエシカル消費に関する議論を増やす目的で既存研究の序論を紹介したい。
エシカル消費研究の大きな潮流として俯瞰すると、エシカル消費の行動自体を解明しようとする研究、エシカル消費を行う消費者の特定をする研究がある。

前者のエシカル消費行動に焦点を当てた研究においては、エシカル消費行動の意思決定モデルを構築することが主目的としてきた。代表的なモデルは合理的行動の理論(Ajzen and Fishbein 1980)及び計画的行動理論(Ajzen 1991)であり、行動を規定する個人の主義や環境の制約などを変数化しモデルの精緻化を図っている。今日まで様々な変数を追加、変更しながらモデルを発展させているが安定して一貫する共通の結果は見いだせていない。これらのモデルを単純化すると購買意図(態度)が高まれば購買行動に結びつくことを前提としているが、現実世界において購買意図が高い消費者であっても購買行動に至っていないことが指摘されている。この問題はEthical purchasing gap 、Green gap、態度-行動gapなどと呼ばれている。つまりエシカル消費を志す(意図する)消費者は多いものの、実際は行動に起こせていない現実の問題がある。この問題の主たる要因は価格であり、さらに購買習慣や、エシカル商品の品質への不安、エシカル消費への冷笑なども阻害要因として挙がっている。エシカル商品は通常の商品よりも価格が高いケースがほとんどである。社会問題を解決しながら生み出される商品はそれだけで価値があり当然ながら価格にプレミアムが反映される。しかしこのプレミアム価格が消費者に許容されないのである。実際に電通が行った調査「エシカル消費意識調査2022」ではエシカル消費の実施条件として、「変わらない価格」、「メリットの明示」、「高品質・高機能」「身近な店で買える」と言ったものが並び、エシカル消費による費用負担や不便さは負いたくない消費者像が浮かび上がる。

またもうひとつの研究の潮流であるエシカル消費者を特定するセグメンテーションの研究においても同様に安定した共通見解が得られていない。研究者は地理的、人口統計的、文化的要素、消費者の行動パターンに従ってエシカル消費者の類型を試みているが限定的な結果とっている。Rettie ら (2012)は、グリーンな消費者はないという逆説的な結論を導いている。ある消費行動に対してはエシカル、グリーンな行動を取りながらも、他の消費活動に対してはエシカル、グリーンな消費行動を取っていないことを実証した。興味深い結果ではあるが、私たちの社会生活において妙に納得感のある結果である。例えば日常的にフェアトレード商品を購入する消費者も高級品の購買行動においてはエシカルな消費は二の次となる。

以上、エシカル消費に関する2つの潮流を概観してきたが、JOURNAL OF BUSINESS ETHICSには毎年何篇ものエシカル消費に関する論文が投稿されており加速度的に研究が進んできている。私たち環境経営学会においてもエシカル消費に関する事例研究及び理論の提唱が出てくることを願う。(2022年10月15日)