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『‘Well-being’を超えて』 野村 佐智代

「感染症対策の非常事態宣言だけでも気分が重いのに、この上、気候非常事態宣言(CED)を出されたら、気持ちがついていけません」。2020年秋、山本良一元会長をお迎えして、授業で気候非常事態宣言の講義をして頂いた。その際の学生の意見である。指導教員の立場からすると、どこのゼミよりも環境問題に関心を持って学んできた学生達ではなかったかと少なからず落胆するも、感染症によって貴重な学生生活の時間を奪われた若者の憂いは測り知れないとも思えた。この発言に、山本先生は、まずは自分たちの健康を守りつつ、この間にも進行している気候変動問題に対峙しなくてはいけないことを学生たちに説いて下さった。そして、「創価大学もCEDを出したらどうか。行動の時だよ」とにこやかに言われてオンラインの画面から去られた。学内で同時期に立ち上げられたエネルギー検討委員会のメンバーである副学長、教職員も山本先生の講義に参加していた。この講義で、山本先生より副学長と私に大きな宿題を出された形となった。
誰が読んでもわかるような宣言文をという大学側と、アカデミアとしてふさわしい宣言文をという山本先生のアドバイスのはざまで正月休みを返上して推敲を重ね、創立50周年の2021年4月に気候非常事態宣言を出すことができた。日本の大学としては3校目であった。宣言を発出して、早1年、ロードマップは何とか描けたものの、これといった具体策はなく地域連携もなかなか進まない。改めてSDGsの達成の難しさを実感する。本学だけでなく、多くの組織で、SDGs達成が進んでいないといった声も聞かれる。
話は変わるが、SDGsブームの中で、‘Well-being’という言葉を最近、よく耳にするようになった。定訳はなく、カタカナでそのまま「ウエルビーイング」と表記されることも多いが、幸福とか個々人が満ち足りた状態といった日本語に置き換えられるようである。心理学やリーダーシップ論が専門の同僚によれば、持続可能な開発を牽引するグローバルリーダーシップにおいて求められる要素というのは、‘Self-transcendence(自己超越性)、’と‘Interconnectedness(相互接続性)’だそうである(Louis, W. F., and Eleftheria,E, “Global Leadership for Sustainability”, Sustainability, MDPI, vol. 13(11), pages 1-25, June.2021)。すなわち、自己の幸福だけでなく、自己を超えて他者のことも考え、そして相互につながっていける精神性を付帯しているリーダーと言えようか。大学においても企業においても、個人の幸福(Wellbeing)の達成を目指しつつ、時に自身のエゴを超越し(Self-transcendence)、他者とつながっていく(Interconnectedness)という「共創」の精神で、一人一人が臨めば、困難な社会課題にも立ち向かえるのでないだろうか。
本学会は、研究者、教育者に加え実業界の方々も会員におられ、専門分野も多種多様である。会員が相互につながり、環境問題を一緒になって様々な角度から研究し、共に若い人材を育てていけば、その使命は果たせるであろう。(2022年7月12日)