
『GAFAMの脱炭素化への取り組み』 竹原 正篤
2022年2月15日
今回、初めて巻頭言を執筆するという貴重な機会をいただいた。何について書くべきか思案していたところ、前回61号の巻頭言で岡本会長が「啐啄同時(Right Place, Right Time)」について書かれていたことを思い出した。学会のメールマガジンの巻頭言は毎回先輩方の示唆に富む内容に大いに勉強させていただいているが、岡本会長の「啐啄同時」にも感銘を受け、大いに触発された。
Right Place, Right Timeというフレーズを口ずさんだところ、連想で自分の前職時代に上司や会社の首脳陣がよく言っていた「Right thing」 または 「Right things to do」という言葉を思い出した。浅学非才の自分には「正しいことは会社として積極的に取り組まなければならない」ぐらいにしか理解できていないが、「絶好の機会」という啐啄同時の意味に通じる「Right Place, Right Time」で「Right thing(正しいこと=今求められること)」を行っている一例が、現在調べている、いわゆるGAFAMと言われる米国の大手IT企業が取り組んでいる脱炭素化への取り組みではないかと思った。そこで、今回はこのテーマについて思うところを少し書かせていただくことにした。
GAFAMの脱炭素化に向けた取り組みの経緯、きっかけは各社で異なっており、サステナビリティ配慮が組織のコアバリューになっているグーグル、CEOが強い信念を持ち推進しているようにみえるアップル、従業員からの突き上げを契機に取り組みを加速したアマゾンなど、いずれも興味深いが、各社ともいざ取り組みを開始すると極めて戦略的に取り組みを行っている。
まず特筆すべき点は、GAFAMは単体で既にカーボンニュートラルを達成している企業があり(グーグル2007年、アップル2020年)、サプライチェーン全体でのカーボンニュートラル実現を、多くの国や日本企業が設定している2050年から10年以上前倒しした2030年から2040年に設定していることである(アップル2030年、グーグル2030年、メタ(フェイスブック)2030年、アマゾン2040年、マイクロソフト2030年)。この中で、マイクロソフトは更に一歩踏み込み、自社が排出する以上のCO2を回収する「カーボン・ネガティブ」を2030年までに実現する目標を発表している。
このようなGAFAMのカーボンニュートラル宣言に対しては、元々CO2排出量が少ない事業だからカーボンニュートラルに取り組みやすいのではという指摘があるが、GHGプロトコルに基づくスコープ1から3までを合計した総排出量を見ると、アップルは約1500万トン、アマゾンは約5500万トンを排出しており、これは日本企業では、商船三井(約1500万トン)、三菱ケミカルHD(約6300万トン)(データはいずれも2019年3月期)とほぼ同レベルであり、決して少ない排出量ではない。やはりこれだけの排出量を実質ゼロにするインパクトは大きい。
カーボンニュートラル宣言に合わせて、GAFAM各社は自社のオペレーションのみならずサプライチェーン全体でも再生可能エネルギー100%で事業展開することを目指し、大規模な設備投資を行っている。グーグルは2017年から単体では既に再エネ100%で事業を行っている。アマゾンは、2020年12月に世界26か所で再エネプロジェクトに投資する発表を行い、現在世界最大の再エネ調達企業になっている。
GAFAM各社はまた、豊富な資金を活用して、気候変動対策に資する革新的な技術開発や森林保全プロジェクト等にも積極的に投資している。例えばマイクロソフトとアマゾンは、各10億ドル、20億ドルを拠出して脱炭素技術の開発を促進するファンドを設立した。グーグルは、親会社のアルファベットが57億ドルのサステナビリティ債を発行している。
GAFAMの脱炭素に向けた取り組みで言えることは、彼らは脱炭素をコスト増で終わらせず、いずれコストを全て回収し、利益創出につなげていこうとする姿勢が強いことである。例えばアマゾンが投資している脱炭素に取り組むベンチャー企業の内訳をみると、EV製造のリビアン(Rivian)に4億ドルを投資するとともに、アマゾンの配送用車両として同社が製造するEVを10万台発注している。また、発注された商品毎に、瞬時に商品のサイズに合わせて包装・配送用の箱を設計・製造する技術を持つベンチャーにも投資しており、自社のオペレーションに採用してノウハウを共同で蓄積している。アマゾンの配送サービスは、その利便性の高さが評価される一方で、無駄な包装により資源を浪費しているとの批判が多い。イノベーションを通じて商品サイズに合わせた包装を実現し、廃棄物削減(資源の有効活用)とコスト削減の同時達成を狙っているように見える。
このように、アマゾンに限らずGAFAM各社は、脱炭素に資する技術開発を行っているベンチャー企業に投資を行いつつ、これらのベンチャーが開発した新しい技術をいち早く自社のバリューチェーンの中で展開し、データやノウハウを蓄積し、それをフィードバックして短期間のうちに製品・サービスの改善につなげるという好循環を回している。そしてこれらの企業の成長の果実も得る。2月3日に大幅な増収増益を発表したアマゾンの2021年10-12月期決算では、投資したリビアンの1兆円を超える株式評価益が大きく貢献している(日本経済新聞2月4日記事)。
GAFAM各社の取り組みを調べ、日本企業の脱炭素化への取り組みを見ると、トヨタ等の一部の先進グローバル企業を除いて、リスクマネジメントの範疇にとどまっている企業が多く、機会創出にまでつなげている企業がまだ少ないという印象である。リスクマネジメントにとどまっている間はまだリアクティブな取り組みと言わざるを得ない。
機関投資家の意向を反映したTCFD勧告でも、企業は気候変動対策にリスクマネジメントにとどまらず、機会創出にまでつなげていくことを求めている。GAFAMの取り組みは、気候変動という人類にとっての最重要課題に取り組むことを通じて自らの持続的成長も実現しようとするものであり、ポーターが提唱した共通価値の創造(CSV)を地球規模で実現しようとしていると言える。脱炭素と経済成長のデカップリングは実現しないという主張もあるが、GAFAMの取り組みを見ていると、あきらめる前に企業ができることはまだまだあると思わせる。(2022年2月)