
『環境経営学会 会長就任のご挨拶 -環境経営学会の新たな挑戦− (It’s my turn. That’s your turn to row)』 岡本 享二
2021年6月11日
このたび、会員の皆様のご推挙により会長に就任することになりました。
20年の歴史と輝かしい実績を誇る環境経営学会の会長職を務めさせていただくことは私にとって大変光栄なことでありますが、変革の只中で舵を取ることに責任の重さを痛感しているところです。
学会は10年来、会員数の減少、企業会員の激減に悩まされてきました。数えれば7つほどの問題点がありましたが、それらを一言で表せば、「社会の変化に追いついていない」ということでした。私自身、都立大学大学院のMBAで教鞭をとりながら受講生(30〜50代の社会人)の訴える環境経営問題との乖離に悩んだ時期がありました。その背景として2012年以降の目を見張るような社会の変革がありました。そのような学びから学会の研究発表活動では2018年より『環境経営はリアクティブな対応からプロアクティブな対応へ』を標榜して啓発に努めてきました。また、優秀なビジネスマンを学会に招聘して研究会を推進して参りました。
このような状況の折、昨年、後藤前会長より「2030年を目指した学会の変革についての10年委員会」を提起され、諮問をいただきました。その節には、いくつかの委員会の中から主要な「戦略委員会」の座長を務めました。学会の若手会員はもとより、理事、執行役員の方々、幾人ものOB会員の方々からご意見を拝聴し、「戦略委員会」としての提案書をまとめました。他の委員会からの提案も踏まえて川村前副会長からの「10年委員会からの提案書」として最終提案がまとまりました。
提案書の内容には満足しています。しかし、「創るのも大変だったけど、実行するのはもっと大変だなぁ(誰が実行するのだろう)」という不安を抱いていました。当時、私自身もこれを機会に学会執行部から退く考えでした。実際10年委員会で「理事の定年制」が論じられたときは、「70歳定年制」を押していました。結局、「定年のラインは75歳で」ということで収まり、私自身は執行部に残ることになりました。
このような状況で会長選任作業は滞っていました。立候補者がいなかったのです。その中で私がお受けしたのは次のような3つの理由からです。
(1)事務局長をはじめ、副会長の方々(推薦人)から熱心に推挙され、就任後のサポートが得られる感触と、これからの学会に対する熱意に接した。
(2)私自身は20年間の学会活動の中で、諸先生から多くの薫陶と貴重な就業機会をいただいてきた。
・ 後藤前会長からは学会設立以前の1996年より環境省の委員会や環境省が設立した研究会でご指導を受けてきた。私が環境やCSRで論陣を張れるのも当時の後藤前会長から受けた薫陶のお陰です。
・ 15、6年前、当時の名誉会長であった西澤潤一先生から、「都立大MBAに『企業倫理論』を設けたいので岡本やってみろ」とご下命をいただいた。今日まで『企業倫理論』と『CSR特論』講座を継続していますが、受講生に講義するというより、生きた経営を学ぶ良い機会を得ることができたと深く感謝しています。
・ 3代目会長であった山本良一先生とのご縁も深いものがあります。1998年に勤務先であったIBMの北城社長と山本良一先生との環境会談にコーディネーターとして参加したのがきっかけです。その後も学会内において皆さま同様、先生からは世界中の最新情報をいただきながら、ハッパをかけられて成長することができました。
・ この間、自由民主党の「環境と社会を考える会」(小池百合子:会長、炭谷茂:座長)に3年間委員として参加しました。
・ 文科省推進のESD 研究では、立教大学の研究チームに参画して欧米企業、NGO/NPO、各地の大学/研究機関の調査研究に3回も遊学の機会をいただきました。その時の経験は学問探求の大きな礎となりました。
このように学会には多様な面でお世話になっていながら、何一つ学会にお返しができていないということが、今回の会長をお引き受けした理由のひとつです。
(3)私自身は環境経営にとどまらず、幅広い研究活動に興味があり、学会活動と同時にいくつもの学術団体に参加してきました。
・ (独)農業生物資源研究所の田部井豊先生をはじめとする数名の先生方からは遺伝子組み換えに関する講座を4年間にわたって受講させていただきました。
・ お茶の水大学の佐竹元吉先生からは足掛け4年以上の長きにわたって植物学と薬学を学ばせていただきました。
・ 山本良一先生のご紹介で当時東洋大学学長であった竹村牧男先生が主宰されていた「宗教と環境研究者の会」に6年間にわたって参加させていただき、宗教、哲学、環境をめぐる宗教や倫理について学ぶことができました。
このような研究活動の成果を環境経営の中に、幅広い視野として生かしていけたらとの思いが3つめの理由です。
会長就任に至った3つの背景をお話ししました。
今後、会員の皆様に新たな施策を始め、研究会、事務局体制の改革など逐次発表してゆく所存です。
新たに理事になられた方々と話し合いを通して、また、先般の研究発表会の発表者からも改革とやる気に満ちた会員が大勢いらっしゃることを知り、力強く感じました。
2030年を目指した改革案は(中心的にまとめたにも関わらず)大変ハードルの高い目標に見えますが、私自身は「改革は可能である」と楽観的に考えています。従来のRigidな体制からDX時代の体制はBalloonやCloudのような柔軟な体制に移行するでしょう。大学教育に関わる者の1人としてこれからの教育はこれまでの《教室、先生と受講生、高額な授業料、形式張った教科書》と言った従来のRigidな体制から、《授業料は限りなく無料が一般化(The ZERO Marginal Cost Society)、どこからでも発信が可能(教室や事務所は不要)、だれでもが受講できて、印刷物の教科書は無くなる》ことでしょう。このような時代に沿った環境経営学会として、さらに力を入れていきたいのは、AI 、IoT、Cloudなどの最新科学技術によって実現可能になった新たな社会変革であるSharing EconomyやCircular Societyを十分理解してプロアクティブな対応を進めることです。
新しい分野として環境経営には生物学を学ぶ必要があることを痛感しています。高度なネット社会は地球があたかも一匹の昆虫の神経脳のような構造となり、あらゆる無駄が極限まで削減されて環境への負荷が驚異的に少なくなることでしょう。
皆さまはトンボの羽には殺菌作用があることをご存知でしたか? 決して化学成分が出るのではなく、物理的な方法で菌が増殖しないのです。
(http://www.kri-inc.jp/tech/1269510_11451.html)
この例はBiomimeticsの世界ではありますが、学会にも化学的な変化のみならず物理的な変革も望まれています。従来の発想にあり勝ちな、現状からの解決策を練るのみならず、全く違った分野/視点からの環境経営へのアプローチが求められています。大きなヒントは生物(昆虫や植物)であり、自然界に回答があるはずです。
新会長として全力を尽くしますが、私自身の能力は微々たるものと自覚しています。皆さまの能力をお貸しください。皆さまと共に変革を推進しましょう。
次のようなモットーで考えています。どうぞよろしく。
It’s my turn. That’s your turn to row!
(私は会長職をお引き受けしました。非力な会長には皆さまの力が必要です。皆さまが存分に力を発揮できるよう、新執行部一丸となって皆さまのサポートに徹します)2021年6月11日