menu

メニュー

『ロシアのウクライナ侵略で原発推進派が有利に』 井上 尚之

「原子力・天然ガスは持続可能 欧州委が方針」(日経電子版)、「原発はグリーンな投資先と認定 EUが方針 低炭素移行で役割」(共同通信)。このような見出しが1月2日に躍り、皆さんも驚かれたと思う。前者の本文は「【ブリュッセル=竹内康雄】EUの欧州委員会は1月1日、原子力と天然ガスを脱炭素に貢献するエネルギーとして位置づける方針を発表した。一定の条件下ならば両エネルギーを持続可能と分類し、マネーを呼び込みやすくする。世界の原子力政策にも影響を与える可能性がある。」、後者の本文は「【ストラスブール共同】1月1日EUの欧州委員会は原発を天然ガスと共にグリーンな投資先として認定する方針を発表した。2050年までに温室効果ガスの排出を実質0にする目標に向け、低炭素社会への移行を促進する手段としての役割があるとした。加盟国が原発推進派と脱原発派に二分する中、各国や欧州議会が反対する可能性もある。」としている。解説すると欧州委員会は環境面から持続可能性のある事業かどうかを見分ける制度として「EUタクソノミー(分類表)」を設けており、これに原子力や天然ガスを追加するということである。しかしこれはあくまでも案であり、今後欧州委員会下の諮問委員会に諮り、4月下旬以降に欧州議会で結論を出すということである。もともとEUでは、原発推進派と原発廃止派がせめぎあっていた。原発推進派はフランス、チェコスロバキア、ポーランドなどであり、原発廃止派はドイツ、オーストリア、ルクセンブルクなどが代表である。原発廃止派は自然エネルギーに完全移行する途中段階として天然ガスの使用を強く推し進めていた。ドイツではロシアからノルドストリーム1と呼ばれるパイプラインを引いて天然ガスを輸入しているのは皆さんも周知の事実である。このような状況下でロシアのウクライナ侵略が起こったのであるが、この侵略に対するドイツの対応はわが日本にも大いに参考になる。2月27日にメルケル前首相を継いだショルツ首相は次のエネルギー政策を発表した。
(1)2022年(今年)で原発を廃止するという方針を改め継続に転換する。
(2)2030年までに石炭火力発電を廃止するという方針を継続に転換する。
(3)既に完成しているロシアからの天然ガスをドイツに運ぶノルドストリーム2のパイプライン稼働を止め、ロシア以外から液化天然ガスを輸入する基地を2か所作る。

注意すべきはノルドストリーム1は継続するということである。さすがにノルドストリーム1を停止すれば国民の生活が立ちいかないのである。また原発の継続、石炭火力発電の継続も同様である。このようにドイツはロシアからの天然ガスを完全には止めることができないし、結局は原発・石炭火力の廃止もメルケル時代の公約の時期を守ることは出来ない。見方を変えればドイツを筆頭にEUはそれだけしたたかであるということである。この文章を書いている3月13日時点で、ロシアの侵略行為はますますエスカレートしている。日本も国益を守るためにはこのようなしたたかさが求められよう。(2022年3月13日)

【補足】
前号のメルマガの巻頭言で私は、ドイツのエネルギー政策について2月27日にドイツのショルツ首相が次の3つの政策を発表したことを書きました。
(1)2022年(今年)で原発を廃止するという方針を改め継続に転換する。
(2)2030年までに石炭火力発電を廃止するという方針を継続に転換する。
(3)既に完成しているロシアからの天然ガスをドイツに運ぶノルドストリーム2のパイプライン稼働を止め、ロシア以外から液化天然ガスを輸入する基地を2か所作る。

しかしドイツ連立政権内で、特に(1)原発継続について異論が噴出し、3月8日にショルツ首相が原発廃止は2022年全廃の方針を維持することを発表しました。また(2)については2030年までに石炭火力発電を廃止するという方針を転換するかどうか更に検討を進めるということになりました。(3)については変化なしです。
従ってドイツは現時点では、原発廃止路線を継続する模様です。以上最新の情報を補足させていただきました。