『物流危機とサステナブル物流への展望』 長岡 正
2026年9月27日
2019年に施行された働き方改革関連法では、5年間の猶予を経た後、2024年から残業時間規制を本格的に実施した。物流分野では長距離トラックドライバーの業務継続を困難とするなど、深刻な影響が懸念されている。これまでモノが運べなくなるとか、届かなくなる事態は「物流危機」とか「物流崩壊」と称されてきた。このような事態を回避するために、2026年には改正物流効率化法も本格的に実施されている。同法では運送事業者に加えて荷主企業にも対策を義務づけ、一般の利用者にも協力を要請した。現在のところ、大きな混乱には至っていないが、結果として運賃や料金はかなり上昇してきたようだ。
たとえば、ネット通販の普及に伴い、配送はこれまで購入に伴う付帯サービスとみなされ、送料無料が一般的であった。今回の危機により無料では実施できないことが改めて認識され、現在は実態に即した表記の使用が奨励されている。距離に応じた地域別送料の導入など受益者負担の適正化が進むなか、利用者にもまとめ買いにより注文の回数を抑えたり、再配達を防止する置き配を活用する動きも見られた。荷主企業も物流では競争せず、共同配送を行って、積載効率を向上させている。さらに、コンビニエンスストアなどの食品流通業では、おにぎりや弁当の消費期限を独自の技術で延長してきた。これにより従来のような多頻度配送が不要となり、食品ロス削減とまとめ配送による効率化を両立させている。このように事業者を支える仕組みが関係者間で整いつつある。
日本ではこれまで各種の危機に見舞われてきたが、予想された最悪の状況には至らなかったようだ。事前に警告されていれば、必要な対策を講じるし、最悪の状況が強調された結果、そうでない場合には影響を軽微とみなしてきたのであろう。今回の事態も全体として見れば、「全く運べなくなる」のではなく「従来のようには運べなくなる」ものであった。構造的な労働力不足には、技術革新や生産性向上による取り組みが期待される。かつて物流の保管作業は人手に頼っていたが、現在では大手企業を中心にDXによる省人化や無人化も進展している。また、輸送においては自動運転の技術革新が著しく、高速道路を中心に実用化が進んでいる。
近年の物価上昇傾向に伴い、事業者は直近のコストを反映した運賃等の設定を試みてきた。国も公定基準としての適正原価の導入を推進している。原価割れを伴う受発注は禁止されるとともに、事業者には正確な算定や効率化による削減が求められる。働き方改革とその後の物価上昇は、従来のような低価格競争から脱却して、物流の適正化を推進する好機であったと言える。将来的には価格の抑制や低下の可能性を視野に入れつつも、適正な負担をしない限り、利用できないという認識が共有されつつある。
これまで物流分野では効率性のみを追求してきたわけではない。地球環境に配慮する取り組みは、グリーン物流やエコ物流として提唱され、今日ではモーダルシフトやエコドライブなどが普及している。労働環境に配慮した取り組みはホワイト物流として関心を持たれ、パレットを活用した荷役の効率化や荷待ち時間の削減などが図られてきた。今後は多重下請け構造の見直しによる効果も期待できるであろう。さらに、デジタル技術を駆使して一層の効率化とともに高付加価値化を試みるスマート物流の動きも新たな成長戦略として注目されている。
このような各種の取り組みを包括したものがサステナブル物流である。事業者の取り組みのみでは限界が見られたが、近年の危機を背景として、利用者の理解や協力も得られてきた。物流を重要なインフラと捉え、適正な負担のもとで社会全体で支える姿勢が求められている。個々の事業者の枠を越えて利便性と持続可能性を両立させる、新たな物流ネットワークの構築も急務と言えよう。(2026年9月10日)